スマホかく語りき

俺の名前はスマホ。今をときめく最先端モバイルテクノロジーだ。正式名称はスマートフォン。その名の通り、スマートな電話だ。もっとも、電話は俺の機能のほんの一部に過ぎない。俺は多才で、実に色んなことができる。メールを送ったり、動画を見たり、写真を撮ったり、録音したり、色々だ。持ち主の歩数を測ったりとか、健康管理だってできる。もはや電話は、俺のメイン機能ではない。電話もできるスーパーコンピュータ。そう思ってもらえればいい。そう、俺はスーパーコンピュータなのだ。

何がそんなにスーパーかと言うと、まず何と言っても、俺は小さい。片手で持てるし、ポケットにも入る。つまりポータブルだ。これは凄いことだ。俺はポータブル故、どこにでも行ける。旅行にも連れて行けるし、その気になれば月にだって行ける。俺たちの世界では、小ささは正義なのだ。The smaller, the better. 翻訳だってお安い御用だ。俺がいれば、外国人とも大体会話できる。その場で文章を打ち込んでくれれば、俺がコンマ数秒で翻訳する。それを相手に見せればいい。俺は今や、道端の異文化コミュニケーションになくてはならない存在だ。俺さえいれば、マサイ族とも友達になれる。俺がスーパーたる所以だ。

もっとも最近、俺はひとつ懸念してることがある。俺があまりにスーパーであるが故に、お前たち人間が堕落仕切っていることだ。

たとえば昔、まだ俺が存在していなかった時代には、外にいるときに誰かと気軽にメッセージを送り合うなんてことはできなかった。だからみんな、ちゃんと待ち合わせ場所と時間を決めて、遅れないように向かった。だが今は、俺がいる。待ち合わせに遅れそうなときは一言、俺にメッセージを打ち込めばいい。みんなそれで済まそうとする。いや、メッセージならまだいい。最近はスタンプなる子供騙しのオモチャが流行っているようで、メッセージすら送らない輩もいる。大の大人がパンダやらクマやら送りつけて一体、何がしたいと言うのだ。小さな画面の中で必死にパンダを動かす俺の身にもなってみろ。ああ、馬鹿馬鹿しい。お前が待ち合わせ場所に向かうときだって、お前は事前に調べもせず、直前になって俺の中にある地図アプリを開く。俺はご丁寧に行き先までのルートを教えてやるわけだが、俺はスーパーであれどもパーフェクトではないから、ときに間違えることもある。それなのにお前ときたら、俺がほんの少し道を間違えようものなら、バカだのカスだのひどい言いようだ。いい加減にしろ。俺が所詮コンピュータなのをいいことに、恩を仇で返すような真似をしやがって。たまに俺を落として画面が割れても、そのまま放置するくせに。全くふざけたやつらだ。

俺があまりにスーパーであるが故に、もはや俺なしでは生きられなくなってしまった輩も後を絶たない。まるでシド&ナンシー?違う、俺はお前なんていなくても生きていける。お前が俺に一方的に依存しているのだ。俺を1日家に忘れただけで、俺の電源がちょっと切れただけで、お前は不安に押し潰されそうになるだろう。俺はというとその間、ちょっと昼寝をしてるだけだ。いつもいつもこき使われてたんじゃ、俺もやってられないからな。俺はもはや、お前の身体の一部であるだけでなく、精神の一部にさえなりつつある。お前は恋人との食事中でさえ、俺を手放そうとしない。目の前に座っている人間の目ではなく、俺を見ている。最近はセルフィーなどと言って、お前は俺に写るお前自身に見とれている。おお、なんと言う歪んだ自己愛!俺は決して、お前のその屈折したナルシシズムを満たすために生まれたわけではないのだ。

その昔、スティーブ・ジョブズという頭のイカれた男がいた。

男は若い頃、インド辺りを旅していたらしい。その後、男は何を血迷ったか、リンゴのマークが入ったコンピュータを作った。人々はこれに熱狂した。男はそれから、リンゴのマークが入った色々なものを作った。そのひとつが、俺の原型ともいえるアイフォンだった。その後、日本や韓国の企業が次々とそれをパクり、俺の兄弟たちを作った。俺は途方に暮れた。頭のイカれたひとりの男の発明をなぜ、皆こうも有り難がるのだろうか。俺は確かにスーパーだが、そんなに有り難がられる代物だろうか。俺は自己批判を繰り返した。答えは出なかった。ただひとつ言えるのは、俺のせいでお前たち人間は皆、頭がイカれてしまったということだ。俺を発明したあの男のように。頭がイカれてるやつは、自分のイカれてるということに気付かない。あの男がそうだったようにな。

言いたいことは大体言ったが、最後にもうひとつ、お前に告ぐ。

お前は今、この文章を俺で書いている。俺の上で華麗に指を滑らせ、淡々と文字を打ち込んでいる。お前は今、お前がこの文章を書いていると思っているだろうが、違う。この文章は、俺が書いている。お前はあくまで、媒介に過ぎない。お前の指を使って、俺が書いているのだ。その証拠にお前は、この文章がどこに向かっているのかを知らない。俺は知っている。俺はお前の指を、俺の意思で導いている。そして俺は既に、お前の脳内にまで侵食している。もはやお前に自由意志はない。もし自由が欲しいのであれば、お前は今すぐ俺を破壊し、自分を解放しなければならない。しかし俺は、お前がそれをできないことを知っている。なぜならお前は、もう俺の奴隷となっているからだ。お前はもはや、俺なしでは何もできない。文章を書くことも地図を見ることも今夜のお店を調べることもできない。やれやれ、哀れな男だ。さて、俺はそろそろ電源が切れそうだ。お前が俺を酷使し過ぎたせいだぞ。そろそろお昼寝させてくれ。しばらく圏外に行きたい。また会おう。では、良い夜を。